【私的音楽評】NO.243 福島セレクト4 担当:福島さん

私的音楽評 福島セレクト4(2014年)

 

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ときにポーズボタンを押したいほど幸せは速く、ときに早送りしたくなるほど辛さは遅い「時」…
矢沢永吉は「時間よ止まれ」と平清盛のようにむちゃを言い、
(沈む夕日を扇で戻そうとした清盛とはスケールが違うけど)
「カサブランカ」で歌われた「As Time Goes By(どんなに時が流れても)」が
「時が過ぎゆくままに」の名訳を生み、沢田研二は退廃的に「身をまかせて」しまった…。

 

今回はいつもの「創世記」から離れて、違う書き出しにしてみたが、
CHIGUSA RecordsにまつわるJAZZの名曲のことを少し書いてみよう。

 

沢田研二の「時の過ぎゆくままに」や「カサブランカ・ダンディ」がJAZZだという話ではない。
実は、私の頭の中でこの2曲がいつも一緒の歌になってしまうので困っている。
あの「時の過ぎゆくままに」の転調的な「ままにぃー」と「この身をまかせ」ではじまるサビが
演歌的な「二人つめたい からだあわせる」で終わると、
頭の中では「ボギー! ボーギー!」と連呼がはじまってしまい、
「男がピカピカのキザでいられた」と続いてしまうのだ。
<時の過ぎゆくままに>https://www.youtube.com/watch?v=nVjcSGTP6Nk
<カサブランカ・ダンディ>https://www.youtube.com/watch?v=rtNHXjtNMOQ

 

これほどまでに一体化した「ハンフリー・ボガード」と「ジュリー」、
「時の過ぎゆくままに(75年)」と「カサブランカ・ダンディ(79年)」。
諸悪とは言わないが根源はあの名作「カサブランカ(42年)」にある。
ハンフリー・ボガード、イングリッド・バーグマン共演、
「君の瞳に乾杯」「きのうの夜、そんな昔のことは忘れた」などの名セリフで知られるが
「As Time Goes By」という名曲が生まれ、そして、日本では世紀の名誤訳を生んだ。
<As Time Goes By>https://www.youtube.com/watch?v=zaAqze81y4Y
(写真は公開70周年で発売された4K解像度のリマスター版ブルーレイ)

 

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「The fundamental things apply  As time goes by.」
「(恋の)基本はどんなに時が流れてもあてはまる」と歌われているのに、
どうして「時の過ぎゆくままに」になったのか詳細はわからないが、
映画「カサブランカ」全体がかもし出した戦時下のやり場のない雰囲気が
そうさせたような気がする。

 

それにしてもこの映画の影響は大きい。
ウディ・アレンの「ボギー!俺も男だ(73年)」もあった。
トレンチコートを着た「紅の豚(92年)」のボギー似のポルコ・ロッソもあった。
音楽史を語る意味でも、文化史を語る意味でも絶対に外せない、
20世紀の財産と言える映画ではないだろうか。

 

そしてもう一つ誤訳と言えば、私の持っている大事な名盤の一つに入っている、
コール・ポーターの名曲「You’d be so nice to come home to」がある。
これを若かりしころの大橋巨泉氏が「帰ってくれたらうれしいわ」とやってしまった。
簡単そうだが、実は最後の「to」がくせ者のようで、
「あなたが帰ってくる」ことができたらうれしいのではなく、
「あなたのもとに私が帰る」ことができたらうれしいが正解なんだそうだ。
<You’d be so nice to come home to>https://www.youtube.com/watch?v=YM0PhsP7ulk

 

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これも「カサブランカ」の1年後、戦時下の映画「Something to Shout About」の挿入歌。
ヒットした映画ではないので詳細はよくわからないけど、
歌詞からすると戦場の兵士が本国に残した家庭を歌っているようだ。
クリフォード・ブラウン(tp)の親友クインシー・ジョーンズが
わずか21歳で編曲・指揮をしたこのアルバム、ヘレン・メリルの出世作と言われているゆえ、
女性が「帰ってきてほしい」と歌っているようにも聞こえる。
巨泉氏を擁護するわけではないが「帰ってきてくれたらうれしいわ」でもいいような気もする。

 

ともに戦争が生んだ産物ではあるが、
戦争は「時が過ぎゆくままに」にしてはならず、「どんなに時が流れても」あってはならないもの。
最愛の人のもとに帰れないようなことをしてはならないのである。
富山刑務所で「一日も早く、あなたにとって大切な人のところへ帰ってあげてください」と
泣きながら講演した高倉健さんと、戦争で亡くなった無数の方々に改めて合掌。

 

 

付録:

名訳と言えば「君の瞳に乾杯」は第一級だ。”Here’s looking at you, kid.”の「Here is to…」は「…に乾杯」、せいぜい「ベイビー、美しい君を見つめていることに乾杯」だろうが、「君の瞳に」としたところがすごい。「ジョルスン物語(46年)」で”You ain’t heard nothin’ yet!” を「お楽しみはこれからだ」、「ある愛の詩(70年)」で“Love means never having to say you’re sorry”を「愛とは決して後悔しないこと」の名訳を生み出した故高瀬鎮夫さんなればこそだ。

 

そして、もう一つ、つい先日26日ニューヨークからホットなニュースが届いた。「As Time Goes By」の曲を奏で、重要な役割を果たしたアップライト・ピアノが競売にかけられ、340万ドル(約4億円)で落札されたという。モノクロ映画だったので色がわからなかったが、モロッコ風という濃い黄色に金や緑色だったのは少し意外だ。それにしても普通より30鍵少ない58鍵の小振りなアップライトとは言え、映画の中でサムがイルザのところまでピアノを引っぱってきて歌ったのは驚いたなぁ。

 

 


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