2017.3.18(土) おとバン114 ひな祭りスペシャル 美夏奈 ライブレポート その1

こんにちは、おとバン蔵です。

 

3/18(土)新横浜ベルズにて開催した女性ボーカルバンドのみが出演出来る特別企画おとバン114 ひな祭りスペシャルのライブレポートをお届けします!

 

今日のレポートは「美夏奈」

美夏奈はバンド初期からプラスティックウエノバンドのボーカルウエノさんがレポートを書いており、今回も熱のこもったレポートを書いてくれました!

 

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【タイトル:せつなさの系譜】

 

「昔の茅ヶ崎は、かっこいいイメージなどなかった。

やせた松。錆びたガードレール。ただ青黒い海が近くにあるだけだ。

自分自身もスポーツができたわけでもない。勉強もできない。

おふくろに叱られるとシュンとしていた。

でも、そうか、こんな気持ちを歌にすればいいのか、と思った。」

 

 

冒頭は、桑田佳祐の著書からの引用である。

私自身、バンド活動でつまずいた時や、人生の迷い道で指針にしている。また、四十を過ぎてから始めた俳句においても、うまくいかない時には、この言葉に立ち返るようにしている。

 

3月18日(土)におとバンで『美夏奈』のライブを観た。

「ひな祭りスペシャル」と銘打たれたイベントで、女性ボーカリストのバンドが出演する企画であった。

どのバンドも、おてんばな〈おひなさま〉が、妖艶な光を纏うように、演奏に取り組んでいた。

 

その中で『美夏奈』は全6曲を歌ったが、うち3曲がオリジナル曲であった。

JEHOさんという作曲家を擁し、果敢な挑戦の始まりであった。

 

『キレイになりたい』は、井口さん作詞の新曲。

自身の新婚時代やその前の恋人時代を思い出して書いたとのこと。きっかけは、仲睦まじき美夏奈夫婦を見てとのことだという。

ステージの黄色の照明が、そんな青春性を彩る。

曲はアップテンポで、BaとDrがグルーヴを作っている。

しかし曲調と反し、「キレイになりたい」と歌う美夏奈さんは、切実さを湛えていた。

美人な美夏奈さんでさえ、こう思うこともあるのかと感じる。ミスチルの歌唱法がベースでありながら、ドリカムのような歌い方でもあった。

 

めぐみさんのKeyが、高音部で女性の気持ちをきらきらと囃した。

『Fly Cathcer』も、井口さんの作詞の新曲で、女の子の成長を、小鳥に喩えた歌である。ゆったりとした曲調である。長谷川さんのアルペジオと、Drの刻みが心地よい。

この曲は映像があるのでご覧下さい。

 

 

そこに、TpとSaxがプープープーと、春の雲のような明るさを加える。

 

 

歌には、噛みしめるような情感が丁寧に込められていた。

 

バスに乗り旅をしているようなゆるやかさを、Baが醸し出している。

 

『ミュージックビデオ』は、今回で3回目のお披露目である。うっちゃんの作詞で、美夏奈さんのステージに立ちたいという気持ちを、代弁して書いたという。

 

JEHOさんのアコギがフォーキーで、ハーモニカも効果的である。

 

それにリズム隊が前向きな速度を付ける。ホーンも往く道の光を演出する。

 

一方で、長谷川さんのギターは、ちょっとしたせつなさを加える。

 

そしてKeyは、コードのたった一音で、前向きさとせつなさの橋渡しをし、ポップスへの翻訳を行う。美夏奈さんは、そうした演奏に、歌手としての想いを乗せる。

 

 

オリジナルの3曲に通底しているのは、どれもせつない歌だということであった。

春の夕暮れを思い出させ、アンニュイさが漂っている。

 

 

美夏奈さんは、本質的にせつない人なのだろうと思う。

そして、朝、昼、夕方、夜のどの時刻が似合うかというと、やはり黄昏時である。

 

いつも歌のどこかに、平坦でない坂道を、少し苦労しながら上っているような感がある。それは、今回のオリジナル曲に重きを置くステージから、より鮮明になった。

 

しかし、個人的に親しく接するときの美夏奈さんは、良妻賢母で、華やかで明るい方だ。それを反映して、歌の坂道にはいつも希望の光が溢れている。そして、自分の歩幅で進んでゆく様子が表れている。

 

 

語弊があるかもしれないが、バンドというものは、やはりボーカリストのものであろう。

 

歌い手の表現したいものを、演奏陣が、しかたない、やってやろうと、一丸になり支えるのが理想である。

 

その点、『美夏奈』の演奏陣は、強者揃いであるが、一歩引いた演奏をしていた。

男であれば〈男にする〉という言葉があるが、いわば美夏奈さんを〈女にする〉という心意気であった。

 

意識裡か無意識裡か、美夏奈さんが一番映えるだろう方法を考え抜き、演奏をしている。美夏奈さんの一番よいところ、魅力的なところ、すなわち美夏奈さんの本質に、創作を集中させていた。

 

一方で、そのような演奏陣にも、個々の特性が出ていたと言わざるをえない。

 

楽器の性質もあるかもしれないが、DrとBaは前向きにリズムを刻み、Gtの二人は歌に同調したせつなさを湛え、TpとSaxはあくまで明るく、Keyはそれらをすべて調和させていた。

 

やはり、音楽とは、人なのである。

結果、聴き手が良質のポップスを、共感、受容することができる。

 

 

ここで注意をしなければいけないのは、『美夏奈』は演奏技術が高いのに、それが第一義にはなっていない、ということである。

 

『美夏奈』の方向性は、美夏奈さんの歌に対する態度が、司っている。

 

自身のこれまで生きてきた道のりや、現在の生活に、真摯に向き合う。その結果、感じたことを、普遍性のある歌に変えようとしている。

 

その姿勢を理解した演奏陣が、そうした歌に最良なサウンドを試行錯誤の末に創り上げ、支えているという構図なのだ。

 

そこには、戦後の焼け跡における美空ひばり、豊かな世になった現代における桑田佳祐の歌にあるような、せつなさの系譜が、確実に存在している。

 

終演後、演奏陣から、今度の曲はどうしようかと、早速話が出ていた。

バラードがいいのでは、バラードなら美夏奈さんに歌詞を書いてもらおうか、などと話していた。

 

 

今後の『美夏奈』の進んでいく道が、楽しみである。

 

それと解く鍵として、美夏奈さんが、今回のカバー3曲についても、どれも自身の目線で歌っていたという事実がある。音楽の本質は、そういくつもあるものではない。

 

そのことは、繁忙な仕事や、出産後間もない子育て期間から、音楽に向き合う時間を捻出している演奏者でもある仲間たちが、一番理解している。

 

 


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