こんにちは、おとバン蔵です!
8/20(土)新横浜ベルズにて開催したおとバン109のライブレポートをお届けします!
今日は、美夏奈の演奏をプラスティックウエノバンドのボーカルウエノさんがレポートします。
ウエノさんは美夏奈バンドを結成時からずっと見てくださり、毎回レポートをお届けしてくれているのです!
2回に分けてお届けします!!
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『美夏奈』のオリジナル曲をガチンコで鑑賞する
~林檎の木ゆさぶりやまず~
暦の上では秋といえども、まだ暑くてたまらない八月二十日の夕刻、おとバンの『美夏奈』のライブを拝見した。
そして、〈歌うということ〉はどういうことあるのかと、改めて深く考えさせられた。
突然であるが、次のような俳句がある。
林檎の木ゆさぶりやまず逢いたきとき
これは、寺山修司が十五歳の時に詠んだ句である。
読解に特に前提知識は必要ない。みなさんが思った通り「林檎の木を思わずゆさぶってしまう。
やめられず、ゆさぶり続けてしまう。あの人に逢いたくて仕方ないときには」といった意味であろう。
更に想像を膨らませて「林檎のような、あの人のおっぱいを触りたくて仕様がない」と鑑賞しても、面白い。
この句を読んで、私は一度は確かに、なんて修司は早熟なのか思った。
しかし一方で、このような気持ちは誰でも遅かれ早かれ抱くものであり、その心の叫びに、大いに共感できた。そして、誰でも共感できることを、とてもかっこよく表現できていると思った。
青春時代のよくありがちでやるせない気持ちを、わずか十七音(この句は字余りで十八音なのだが)に閉じ込めて、永遠のものにしている。私もロックンローラーとして、修司に負けないないような歌を歌いたいと思った。そして、修司というのは、やさしい男なのだろうなと思うのだ。
まずメンバーを紹介。
メンバー一同、夏らしい出で立ち。
ボーカルの美夏奈さんは夏帽子にブルーのサマードレス。
JEHOさんはアコギを持ち、ハーモニカフォルダーを首に下げ、帽子をかぶっている。ボブ・ディランのようだ。
エレキギターの長谷川さんは昨日まで三十九度の熱があったようだが、Tシャツに短パンである。
ドラムの井口さんも帽子をかぶり、うっちゃんもラフな夏休みの格好だ。
コーラスのアツコちゃんは、大人っぽい美夏奈さんと対照的に、やはり若くかわいらしい洋服である。
今回の『美夏奈』のライブで、圧巻はやはりオリジナルの『ミュージックビデオ』という曲であった。五曲目に演奏された。その演奏を聞いて頂こう。
作詞はベースのうっちゃん
作曲は新メンバーのJEHO(ジェホ)さん。
JEHOさんは、長谷川さん、井口さん、うっちゃんの高校時代の一年後輩で旧知の中。横浜の高校生バンドコンテストの『HOT WAVE』で決勝まで行き、横浜スタジアムのステージに立ったことがあると言う。
曲はカントリーのような曲調で始まる。
そしてハーモニカが囃す。自然と客席から手拍子が起こる。パーティソングのように聞こえる。
が、アコギが涼し気で、それに絡むエレキがブルージーでもあり、せつなくてたまらなくなる。楽しいだけの曲ではないのだ。こういう音楽が、ロックというのだと思う。そして〈夏の夕〉といった風情を感じさせてくれる。
サビで美夏奈さんはこう歌った。
いま私 歌っている
背中を押してくれたあなたがいたから
支えてくれている
笑顔でいてくれるあなたがいたから
まるで時が止まっているかのような歌い方であった。
歌いたいというあくまで個人的な衝動を、内省的に、個人的なラブソングとして歌っている。
そしてそれが永遠性を帯び、時間が止まるのである。井口さんのドラム、うっちゃんのベースが低音に響き、より悠久な思いを感じさせる。
しかしながら、歌い手の気持ちがあくまで前向きなため、我々も自然に思いを共有することができる。
たまたま私の隣に、美夏奈さんのお父様が座っていらっしゃったが、うなずいて聴いていらした。JEHOさんの明るい曲調がそういったことを手助けしている。
長谷川さんのエレキはそれをブルーに染め、アツコちゃんの透明感のある高い声はより神秘性を演出する。
そして、それらすべてを調和し、先導し、せつない一瞬を創り出し、我々に自然な形で提供するのは、美夏奈さんである。
歌手としての技量と、女性としての人間性がそうさせている。だから我々は、あたかも横浜の丘の上から、暮れなずむ夏空を見上げているような、ひと夏の経験を共にするのである。
MCで、うっちゃんが、どんな気持ちで作詞したかを語っていた。
美夏奈さんが昔、
「生まれ変わったら歌手になりたい」と言っていた。
それを夫の康輔さんが
「生まれ変わらなくていいよ、いまからバンドやればいいじゃん」と、
自分や長谷川さんなど昔の仲間を集めてくれた。美夏奈さんは小さい頃から歌が好きだったらしい。
自分もいまになって娘が家で歌っていたりするのを見て、なるほどと思い、その気持ちを急いで詞にしたためたと。
JEHOさんは、二月におとバンを初めて観て、楽しみながらも、純粋な音楽に心を打たれたらしい。
溢れる熱量に感動した。今回、先輩たちに誘われ『美夏奈』に入り、バンドを初めたころの原体験を追体験しているとのこと。
長谷川さんは、高校時代に初めてうっちゃんとバンドを組みライブに出た。JEHOさんと井口さんのバンド(ストリートスライダーズなどをコピーしていたとのこと)が一緒だった。楽屋で、初ライブだったので浮かれていたら、JEHOさんが独り泣いていた。どうしたのだと聞いたら、「出来が悪くて悔しくてたまらない」と言っていた。これぐらいの気持ちでないと、上に行けないのだなあと、恥ずかしく思ったと、思い出を語った。
アツコちゃんは、社会人になりたてで、プライベートでもこのような大人たちに囲まれて、いろんなことを知りつつあるはずである。
みんな、林檎の木をゆさぶって、ゆさぶりやまないのである。
そして、そうしたやるせなくて仕方ない気持ちが出てくるというのは、やさしく前向きに生きているからである。
一瞬のかけがえのない気持ちを、永遠性を持った作品に閉じ込めるということが、ロックンロールである。そのためには、あくまで人間として普通に生きなければならない。それがやさしさというものだ。
我々は、やりようによっては、時空を超えて修司の林檎の木にたどり着くこともできる。
ましてや同時代に生きる人同士、美夏奈さんは桜井和寿と、私は桑田佳祐と同じ夏の夕空を仰ぎ、同じ気持ちを体感することが出来る。
しかし、そこに美夏奈さんと、私自身の独自な発見があれば、それは美夏奈さんと、私自身にしかない、かけがえのない永遠性を持った夏の夕空となる。
つづく・・・・・