2018.3.18(日) おとバン127 ひなまつりスペシャル!! ライブレポート美夏奈

こんにちは、おとバン蔵です!
 
3/18(日)に新横浜ベルズで開催した女性ボーカルバンドだけが出演出来るおとバン127 ひなまつりスペシャルのライブレポートです!!
 
 
3組目に演奏した美夏奈を、バンド結成当時からずっとレポートしているプラスティックウエノバンドのボーカルウエノさんがお届けします!!
 
 
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早川義夫(ロック歌手)の言葉。

 

「誰もが、心の中で、歌を歌っている。本当のものをつかむために。」

「歌い出すことの出発は歌いたいことがあったからで、音楽の勉強をしかたらではない。」

「歌が伝わるとか伝わらないということではない。歌う人間が伝わってこなければ駄目なのだ。」

「いいものは、うるさくない。うぬぼれない。かっこつけない。色っぽい。悲しくなってくる。」

「自分の弱さを歌にしたかった。自分の醜さを歌にしたかった。自分のかっこ悪さを歌にしたかった。それしか歌にするするものはない。」

「いい機械がいい音を出すのではない。いい心がいい音を出すのだ。」

「伝えたいことと、伝えたい人がいれば、歌は生まれてくると、信じている。」

「存在そのものが、音楽を奏でる。」

 

 

 

<1曲目:ラブリー(小沢健二)>

 

幕が開き、よく聴きなれたなつかしいメロディが聞こえてきた。
小沢健二の『ラブリー』である。

 

ライブ映像があるので、まずは聞いて頂こう。
 


 
 

今回、『美夏奈』はアコースティック編成で決めてきた。
5人のメンバーが、ステージに横一列に並ぶ。

左から、めぐみさん、井口さん、美夏奈さん、JEHOさん、長谷川さん。
 
通常の『美夏奈』とは異なり、井口さんはカフォンを有効に使ったパーカッション、JEHOさん、長谷川さんはアコースティックギターを弾いている。

 

 

めぐみさん、井口さんは白シャツ、美夏奈さんはピンクのシャツ、JEHOさん、長谷川さんは青のシャツである。
 
その衣装の色合いが、美夏奈というバンドが、音楽的にも人間的にも、やわらかいやさしさを持ち合わせていることを示している。

 
 
美夏奈は右手でシェイカーを振りながら、左手のマイクで、あくまで伸びやかに歌っている。


 
このオザケンの歌はもともと明るい曲調のものである。
井口さんのパーカッションは軽快なリズムを刻む。
 

 
 
それに敏腕な二人のギターのストロークがぜいたくに絡んで来る。

 
 

美夏奈さんは右手でシェイカーを振りながら、左手のマイクで、活き活きと歌っている。
 
 

しかし、なぜか、少し立ち止まり、人生の来し方を振り返るような、そういった歌い方をしていた。
春愁(はるうれい)という言葉がぴったりである。

 
 
めぐみさんのオルガンが、そんな微妙な気持ちを抒情的に後押しする。

 

この曲では、ステージの照明は、点いているかどうかわからないくらい、かすかであった。

春の黄昏に佇んでいる気分にさせてくれる。
 
 

「Oh, ベイビー」というサビが、何て伸びやかなことか。
 
美夏奈さんが少し苦しそうに声を張り上げる。
 
コーラスは、めぐみさん、JEHOさんは、長谷川さん。

 

 

 

やさしい女声のめぐみさんと対照的に、JEHOさんの神経質に丁寧に、そして、長谷川さんはイキ顔でハモってくるのだ。

 

この曲は、この「Oh, ベイビー」をどう歌えるかということが、すべてなのだ。
 

 
私の右隣りで、きれいなお姉さんと男の人が、手拍子をしていた。
この方々は、美夏奈さんの実姉と旦那様である。
 
そして、ステージの目の前では、子供たちが踊っていた。

 

 

<2曲目:Your Song(ラブ・サイケデリコ)>

 

この曲も、いささかなつかしい。

なんども聴いたことのあるせつないイントロ。
 
 

JEHOさんと長谷川さんのストロークが文句なしに佳い。

会場全体からは、リズムに合わせて自然に手拍子が巻き起こった。
 
 

 

そして、今回のリズム楽器は、ドラムではなく、パーカッションであることを、この楽曲で改めて気づかさせてくれた。

 

井口さんは今回簡素な形態の楽器を弾いているのだが、一音一音が効果的。
せつなさを醸し出すことも、リズムを煽情することもあった。
 
たったひと叩きで、サウンド全体を引き締めたりもしている。

ひとつひとつのプレイが、聴き手の気持ちを増幅させる。
 
 


 
 

めぐみさんのハモンドのよるオブリガードは、サウンドをより一層牧歌的なものにする。

蓮華草が咲き乱れる田舎の光景を思い浮かべる。
 

 
 

それぞれの聴き手の、それぞれに心象風景に、戻してくれるのだ。

 

 

そういえば、私がめぐみさんと初めてあったのは、山下公園近くのライブハウスであった。そのころ、この曲が流行っていたような気がする。

 

 

美夏奈さんは、ラブ・サイケデリコのKumiよりは、やはらかな歌い方だ。

が、この曲の眼目である<体言をつなげまくしたてる>という表現手法を、存分に自己のものにしている。
 

 
名詞と名詞がぶつかりあり、詩情を醸し出す。

そして、歌詞の意味を、抒情が凌駕する。

 

これは、桜井和寿も桑田佳祐もジョンレノンもボブディランもやってきたことである。

もっと言えば、西東三鬼も秋元不死男も山口誓子も松尾芭蕉もやってきたことだ。

 

 

美夏奈さんのやさしい歌い方は、歌われた言葉から、もはやその意味を離れて、春の夕暮れの風景を描き出す。

 

『Your Song』という歌は、必ずしもそのような情景をうたった歌ではないのだが。

 
 
そういえば、私の好きな歌、好きな歌手というものは、いつも私のせつない気持ちを代弁してくれていた。

それは、言い換えれば、まるで西洋画のような、ゆったりとした風景を、私に描いてくれたということである。

情景を描いてくれない音楽は、どんなに流行っていても、私には一切不要であった。
 
 

アウトロの「Woo~」という、美夏奈さんとめぐみさんのコーラスで、絵筆がそっと擱かれた。

 

 

<3曲目:家族の風景(ハナレグミ)>

 

JEHOさんのハーモニカとゆるやかなアルペジオ。

もう、イントロだけで聴衆をイカせてくれる。

私は、この曲は知らなかった。

 
 
「キッチンにはハイライトとウイスキーグラス

どこにでもあるような家族の風景

七時には帰っておいで」

 
 
という歌である。

 

美夏奈さんは、かったるい、アンニュイな感じで歌っている。

この曲でも、なんともいえない春の黄昏時を思わせるのである。


 
 

家族が、いつものように、いつもと同じ食卓を囲む風景。

それは、少し退屈かもしれないが、何よりも幸せなひとときなのである。

 

原曲はどんな感じなのだろうか。

原曲からはどんな<家族の風景>が浮かんでいるのだろうか。

 

 

美夏奈さんは、すべての歌を自分の歌とし、自分のこととして、歌っている。

私はこの曲を知らなかったがために、やさしくも芯のある表現を味わうことができた。

 

 

この曲のサビに差しかかるとき、私の前の方にいた観客の男性が、隣の女性の肩に、手をやっていた。

美夏奈さんの歌には、そういったことをさせる力がある。

 

 

実は、この曲については、メンバーの演奏を注意して聴くのを、申し訳なくもつい、忘れてしまった。

しかし、そういうなるのが、いいバンドであるということなのかもしれない。

 
 

うまい以上に、かっこいいのだ。

バンド全員で、詩情を醸し出しているのだ。

 

 

 

<4曲目:飾りじゃないよの涙は(中森明菜)>

 

前の曲とは一転して、ジャカジャしたストロークから始まった。

 

この曲は、ずっと真夜中の歌だと思っていた。

が、美夏奈さんが歌うと、どうも薄暮の情景を思わせる

 

おとバンでお馴染みのRiekoさんの、旦那様の制作されたラジオ番組でも、この曲を取り上げ、議論していた。

 

Tokyo FMの『ミュージック ドキュメント 井上陽水×ロバート キャンベル「言の葉の海に漕ぎ出して」』という番組。

 

平成28年度の文化庁芸術祭・優秀賞を受賞していた。

 

その番組では、「赤いスカーフがゆれるのを/不思議な気持ちでみてたけど」という歌詞で、<赤いスカーフ>が誰のスカーフかを、街の人にインタビューをして意見を聞いていた。

 

外を行き交う人のものか。自身のスカーフなのか。

 

 

この番組を聞いて、日本語の持つ曖昧さという特性を、井上陽水は最大限に活かし、聴き手の想像力を広げてくれるような詩を書いたのだと思った。

 

美夏奈さんはその詩を最大限に利用して、季節および時間さえも自分で変えてしまって、自分なりの風景を描いているのである。

 

 

<赤いスカーフ>という歌詞から思い出したが、この曲での美夏奈さんは大変怖かった。

情念がこもっているのだ。

 

いつもの、やはらかさをたたえた歌い方とは、全然異なっていた。

ステージからの視線は鋭く、それは幼き時にブラウン管から放たれた、アントニオ猪木や

長与千種の眼光のようであった。

 

 

そして、「私は泣いたことがない」と歌う美夏奈さんの後ろで、なんとめぐみさんが笑って

いた。

 

これは、大変恐ろしいことだ。

竹中直人の<笑いながらおこる人>のようである。

 

 

赤い照明が、バンド全体の奏でる狂気を、更に燃え上がらせる。

井口さんはバスドラのような仕掛けでカフォンを殴りつける。

 

JEHOさんのハーモニカは細やかで、それが都会の情景を思わせる。

長谷川さんのストロークが加速度をつける。

 

曲の中に強弱が、圧倒的にある。

演奏する全員が楽しんでいる

圧倒的な歌手を、圧倒的な演奏人が支えるという、バンドとしての矜持が感じられた。

 
 
歌のエンディングは、「ホホホ・・・」と歌われて、最後まで不気味さがあった。

 

 

<5曲目:春の歌(スピッツ)>

 

 

この歌からは、せつなさの中に、魂があるということを感じさせられた。

同時に、それがエンタテイメントとして成り立っていた。

 

 

ご承知の通り、魂があるが、そこにせつなさはなく、エンタテイメントとしても成り立っ

ていないバンドも、世の中には残念なことにいる。それを、独りよがり、という。

 

 

めぐみさんは、この曲ではなんとキーボードを弾かず、タンバリンを叩き、コーラスに集

中していた。

「春の歌」「聞こえるか」「遮るな」と韻を踏んだ歌詞であるが、それらを強調することで、

歌詞の構造を、それとなく気づかせてくれた。

 
 
JEHOさん、長谷川さんは、この曲では本当によくありがちな、普通のストロークを弾い

ていた。それはとても贅沢である。
 

 
何も奇を衒っていなことが、やはらかさ、せつなさ、アンニュイさに拍車をかける。

 

 

美夏奈さんの歌から、春の夕暮れの道を少し大変そうに登っていく様子が伝わってくる。

 

以前観たステージから、夏も、冬も歌えることはわかっている。

そして、今回改めてライブを見て、春という季節や、桜吹雪の条件にも映えることを再確認した。

 

 

そういえば、連歌の世界では、「春」「夏」「秋」「冬」といった四季と、「桜」「月」「恋」が、参加者により次々と詠われる。
 
「夏」「冬」は詠いやすいが、「春」「秋」は少しむつかしいといわれる。
 
 
それ以上に、「桜」「月」「恋」といったら、歌に様々なことが問われる

小手先では通じない、人生観が出てしまうのだ。

 

 

春という季節や、桜という花、そして何より、夕間暮れという微妙な時間帯を、歌えると

いうことは、大変稀有なことである。
 
 

美夏奈さんの歌い手としての力量は、スピッツの楽曲の持つ青春性に、ちょっと大人びた感じを付け加える。

 
 
大学を卒業した、20代後半に差し掛かる、お姉さんが歌っているといった感じである。

長谷川さん、JEHOさん、井口さん、めぐみさんは、それを理解している
 
バンドとしての共通認識により、聴衆は歌の世界に引き込まれていった。

 

 

<メンバーからのコメント>

 
 
■ボーカル:美夏奈さん
 
「MCは緊張しました。あせる暇もありませんでした(笑)。
 
今回、都合のつかかったメンバーがおり、少人数で、アコースティックという形になりました。どうなるかと思いましたが、JEHOさんがしっかりとしたアレンジをしてくれ、メンバーも思いっきり弾いてくれ、心配もなく、伸び伸びと歌うことができました。」

 

 

■ギター:長谷川さん
 
「全体的に、どの曲もイントロがうまくいきました。JEHOのハープが凄くよかったよ。
あと、今回はアコースティック編成ということで、個人的には、荒井由実のような世界感を出せたらいいなと思っていました。松任谷由実ではなくてね。

今回は、ベースのうっちゃんがいないので、最初はどうしようかと思ってたんだけどJEHOが低音部も含めて、アレンジをとてもよくやってくれたので、何とかやり抜くことができました。」
 
ハナレグミの『家族の風景』は、初めて耳にするお客さんも多くいらしたと思います。
でも、絶対みんな気に入ってくれるはずだと思ってました。
 
こういう素晴らしい楽曲を、どのように自分たちで表現する事にチャレンジしました。」

 

 

■ギター:JEHO
 
「演奏陣も、美夏奈さんも、それぞれがそれぞれなりに楽曲の意味を考えて取り組んでくれて、アレンジした甲斐がありました。
 
『ラブリー』も、オザケンとはまた違う感じで歌ってくれて、大変楽しかったです。

もう、メンバーには、愛しかありません。」
 
 

■キーボード:めぐみさん
 
「今回、いろいろな曲に取り組むことができて、やりがいがありました。

はにいパラダイスとまったく違った感じですしね(笑)。私もオザケン大好きで、楽しかったです。
 
ラブ・サイケデリコなんかもやっちゃったりして。

彼がデビューしたてのころ、夏フェスに見に行ったことがありまして。

それぐらい好き。
 
今回、アコースティックでやるので、ピアノ、生ギターに合う曲でということで、挑戦し
てみました。」
 
 

■ドラム:井口さん
 
「今回、限られたメンバーだけで、加えて、時間の都合で2回しかリハができませんでした。

ヤバいと思ったけれど、集中力で乗り越えていくことができました。

ホッとしています。」

 

 

 

 

 
 
 


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