人を、街を、音楽でつなぐ市民団体 NPO法人ARCSHIP 【私的音楽評】 No,224 ニシセレクト 61

【私的音楽評】 No,224 ニシセレクト 61

【私的音楽評】 No,224 ニシセレクト 61

 

 

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二十代、横浜白楽のBarにひとり入り浸っていた。
若気の至り、ほぼ毎晩通って、
たぶんその店でポルシェ1台分の金を酒に替えた。

 

常連客は作家やら役者やら音楽家やら、元気な神奈川大学生やら
賑やかなもので、田舎高校出身の俺にとっては十分に刺激的だった。
K君は卒業後、10万円握りしめてユーラシア大陸に渡り、
五年後にドイツ人の婚約者を連れて帰国した。
美大出のA子は「日本の端っこにきっと何かある」つぶやいて
三年後に小笠原の住民になってしまった。
ちょっとシャイなサックス奏者は、
ある日テレビの中で陣内孝則の隣で踊っていたし、
男前のバーテンダー君は、水戸黄門横での印籠を出していた。
いま思い出しても、みんなユニークで思いきりが良くて、
我が強いメンツばかりだったなあ。

 

酒で覚醒した頭で、
常連たちの思い入れや夢の話しに耳を傾けていた。
勇気づけられたし、殴り合いもしたし、恋もした。
さらにもうひとつ、それまで知らなかった音楽と出会ったのもその店だ。
JAZZの王道のマイルス、コルトレーン、ビルエバンス、etc。
はじめてペンギンカフェオーケストラを聴いたのもカウンターでだ。
違う場所に出向けば、それまでの仲間とは異なる“人種”に出会うように
音楽だって接点が変われば、否応なしに世界は広がった。

 

その店は、閉店25分前の1時35分になると、
どでかいJBLのスピーカーからお決まり曲が静かに流れた。

 

キースジャレット ケルンコンサート Part I
26分1秒。譜面無し構想無しのピアノ即興曲。

 

俺の無計画な二十代のテーマソングだ。
いまでもその頃の仲間たちが集まればCDを引っ張り出す。
俺は生まれ変わっても、ポルシェ1台分の金で貴重な経験を買うだろう。

 

Keith_Jarrett_Koln_Concert_Cover

 

KEITH JARRETT – Köln, January 24, 1975 Part I
http://www.youtube.com/watch?v=TzJlbD9cSzk

 

 


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