人を、街を、音楽でつなぐ市民団体 NPO法人ARCSHIP 【私的音楽評】 No,237 ニシセレクト 64

【私的音楽評】 No,237 ニシセレクト 64

【私的音楽評】 No,237 ニシセレクト 64

 

 

__夏木マリ2

 

夏休みが終わった二学期のはじまりに、突然雰囲気が変わる人がいる。
同級生のタナカ君の場合、その振り幅があまりにも大きすぎた。
タナカ君は「そんでな」が口癖で、丸顔おかっぱ頭の美術部員だった。
制服もきちんと着て、教室の隅で雑誌など読んでいるタイプ。
それが、二学期の初日、突然…リーゼントで現れた。教室内騒然。
制服はそのままなのだが、青く剃り込みまで極めてきたのである。
担任は「タナカー、休み中に悪いものでも食べたんか?」と心配した。 タ
ナカ君と俺は ROCK 仲間で、彼のおかげで T-rex や Zeppelin を知った。
クラスで一番やかましい男と一番おとなしい男の ROCK の絆。
なので心配した俺が声を掛けようとしたら、彼から近づいてきた。
「そんでな、ニシ君、どうしたら不良になれるんやろ?」
やはり彼は、夏休みに悪いもんを食べたようだった。

 

昼休みの山岳部の部室はワル連中の溜まり場で、
立ち込めるタバコの煙、空き瓶が転がり、ラジカセからは CAROL が定番。
そこでも突然変異の丸顔リーゼントの話しで持ちきりだった。
ふいにノックがして引き戸が開いた。タナカ君だった。
「入ってもいいですか?」
「ボケッ、はよ扉を閉めんかい」レスリング部の主将の Y が一喝した。
ワル共の中に座るタナカ君。オオカミの群れに子鹿が一匹。
「あのぅ皆さん、友だちになってください。アカンやろか?」
子鹿の必死の決意表明に唖然とするオオカミ達。
日常「なにメンチ切ってんじゃい、いてまうぞ」の質問には即座に返答、
もしくは頭突き返しの準備は万全なのだか「友だちになろう」は初体験だ。
しばし沈黙の後「おんなじ高校におるやんか」そう小声で応えたのは
笑いながら人をブン殴る男、M だった。

 

騒ぎはすぐに起きた。
登校時、タナカ君が唇を腫らしてやって来た。リーゼントはしぼんでいた。
わけを聞けば、バス停で見知らぬ高校生達にやれたと。
「そんでな、バスから M 君が降りてきて助けてくれてん。メッチャ強かった」
どうやら M が早朝のスマイルキャンペーンを実施したようだった。
昼休み、いつもの部室でタナカ君が M に「ありがとう」と丁寧に頭を下げた。
「辛気くさいのぉ….連れ(友人)をほっとけるかい」と M は照れ笑い。
「そんでな、これお礼や」タナカ君がシングル盤を差し出した。
「夏木マリさんのサイン入りや、僕の宝物」
「しぶい趣味やなぁ、ワシは百恵ちゃんなんやけど」M は夏木マリを見つめた。
「夏休みにマリさんのライブを観てん。美人やで大人やで一発で好きになってん」
少々興奮気味のタナカ君に、またもや戸惑うオオカミ達。
「そんでなマリさんが“男は不良がいい”って言ってたんや。M 君、僕不良か?」
M はシングル盤を壁に貼り付け「夏木マリ。罪な女やなあ」とひと言。
その場にいたオオカミ達は、夏木マリの唇を眺めながら大きく肯いた。
夏と美女が、少年を突然変えたのであった。

 

さて、今回の曲は少年の人生をも変えた夏木マリの“裸の青春”である。
歌唱力は別として♪たった一度の青春を悔いなきように♪の歌詞が泣かせる。
元気かな-、タナカ君。

 

__夏木マリ 裸の青春

 

裸の青春/夏木マリ(1974 年)

 

 


トップページ » 週刊木曜日私的音楽評 » 【私的音楽評】 No,237 ニシセレクト 64

PAGE TOP